エンデューリング・オークション・ケイパビリティ(EAC)は2023年10月に開始されます。これはNational Grid ESOが新たに開発した、周波数応答および予備力サービスの調達プラットフォームです。EACの導入により、周波数応答市場の仕組みや、サービス提供者の入札方法が大きく変わります。
ESOはこの夏に実施したコンサルテーションを受け、EACの最終的なサービス設計案を発表しました(詳細はこちら)。現在Ofgemの承認待ちですが、新たな市場の運用方法が確定しました。

EACで使われる新しい用語を素早く理解したい方は、入札解説記事をこちらからご覧ください。
新しいルールにより、入札の選択肢が大幅に増えます。それでは、EAC導入時に事業者が使える様々な入札戦略とはどのようなものでしょうか?
現在の入札戦略をEACで再現することは可能だが、必ずしも簡単ではない
現在の周波数応答向け入札戦略は、親注文・子注文・ループ入札といった仕組みを使い分けて構成されています(詳しくはこちら)。では、これらの戦略はEACでどのように活用できるのでしょうか?
「ループ入札」はEACでよりシンプルに
従来は高・低両方のデリバリーに対応するため、2つのループ入札(C88)が必要でした。EACでは、両方向のボリュームを1つの親注文でまとめて入札でき、価格も1つだけ設定すれば全体に適用されます。
戦略1:Dynamic Containment LowとDynamic Containment Highを同時に受け入れられる一括入札。

このような複数サービスを結びつける入札は、今後も受け入れられやすい優位性を持つと考えられます(先週の詳細解説参照)。
シンプルな親注文戦略が複雑に
従来は、高・低それぞれのデリバリーに対し、2つの親注文(C01)で全量受注型の入札が可能でした。EACでは、3つのバスケットに親注文を振り分ける必要があります。1つはDynamic Containment Low、1つはHigh、もう1つは両方の入札用です。最後のバスケットの価格は他2つの加重平均となります。
同じEFAブロック内のバスケットは排他的で、1つだけが受け入れられます。
戦略2:Dynamic Containment Low/Highのいずれか一方でも受け入れ可能な入札(中断不可型)。

従来は簡単だった入札戦略も、EACではより複雑になります。1日通してこの戦略を取ると、利用可能な25バスケットのうち18個を使い、3サービスのうち1つにしか入札できません。
子注文でボリュームを分割し、別価格で入札可能
現在のオークションでは、親注文とともに子注文を出すことで、一部ボリュームを別価格(多くは高値)で入札できます。これが「ホッケースティック型」入札を可能にしています。
EACでも子注文の仕組みは同じですが、複数の子注文が提出可能になりました。現在と同様、親注文が受け入れられた場合のみ子注文も受け入れられます。
戦略3:戦略2をベースに、一部ボリュームを子注文で高値入札。

子注文はカット可能なため、追加したボリュームの一部だけ受け入れられる場合もあります。複数サービスにまたがって子注文がカットされる場合、受け入れられるボリュームの比率は提出時と同じでなければなりません。
EACは入札戦略の自由度を大幅に拡大
現行市場設計とEACの最大の違いは、複数の周波数応答サービスに同時に入札できる点です。
親注文・子注文・代替子注文を組み合わせることで、事業者は入札の柔軟性を大きく高めることができます。
複数サービスへ同時入札し、オークションに最適化を任せることが可能に
従来は1サービスずつしか入札できませんでした。3つの周波数応答サービスごとに別のオークションがあり、事前にどのサービスに入札するか決める必要がありました。
EACでは、複数サービスに同時入札可能です。各サービスごとに別バスケットを使えば、同じEFAブロック内では1つだけが受け入れられます。オークションのアルゴリズムが最も市場をクリアできる価格で選択します。これが「コーオプティマイゼーション(共最適化)」で、EACの新機能です。
戦略4:3つの周波数応答サービスすべてに入札し、1サービスのみ受け入れられる方式。

これらのバスケットに子注文を加え、価格ごとのボリュームも調整可能です(戦略3参照)。
複数サービス間でデリバリーを分割可能に
EACでは「スプリッティング(分割)」が導入され、複数の周波数応答サービスを同時に提供できるようになります。これは従来の市場設計では不可能でした。
1つの親注文で分割提供も可能ですが、子注文や代替子注文を活用することでより効果的な結果が期待できます。
親注文のボリュームをゼロに設定できる新たな柔軟性
子注文とゼロMWの親注文(EACの新機能)を組み合わせることで、3つの動的周波数応答サービスに完全カット可能な入札が可能です。
各サービスを独立した子ブロックに分けることで、他の子注文とは独立して受け入れ・拒否が決まります。これにより、少なくとも1サービスで採用される可能性が最大化されます。
戦略5:Dynamic Containment、Dynamic Moderation、Dynamic Regulationの組み合わせ入札。

各子注文に含めるボリュームは、そのユニットの認定容量を超えてはなりません。また、全子注文の合計もユニットの総容量を超えられません。
代替子注文はEACの新機能で、最適なコーオプティマイゼーションを実現
戦略5の子注文を新しい代替子注文に置き換えることで、3サービスのいずれかで契約獲得の可能性を最大化できます。
代替子注文は互いに関連して受け入れられます。事業者は各サービス向けにフルデリバリー能力を提示でき、ESOはユニットの能力を超えない範囲で最適な組み合わせを選択します。
つまり、ESOが1サービスだけの入札を受け入れたい場合、そのサービス向けに最大能力で応じることができます。
戦略6: Dynamic Containment、Dynamic Moderation、Dynamic Regulationの任意の組み合わせ入札(一定の制限あり)。

バスケットは複数のEFAブロックにまたがって接続可能
EACでは、周波数応答バスケットは1つのEFAブロックごとに設定する必要がありますが、複数のサービスウィンドウをループで接続することができます。これにより「ループファミリー」が形成されます。
各バスケットに0より大きいボリュームの親注文が含まれている場合、これらの親注文はすべて同時に受け入れられる必要があります。
戦略7:1日全体を通したDynamic Containment入札。

各バスケットに1つずつ親注文があるため、6つのバスケットはセットで受け入れられなければなりません。そうでなければ入札は却下されます。
EACは入札の選択肢を広げる一方で制限も存在
戦略2のように、従来は簡単だった入札戦略がEACでは複雑になる場合もあります。各ユニットが提出できるバスケット数に制限があるため、すべてをオークションの共最適化アルゴリズムに任せることはできません。
共最適化可能な入札を目指す場合、単一サービス向けの従来戦略からの転換が求められることもあります。多くの事業者は、どのサービスに参加するか自分で決めたいと考えるでしょう。
最適な戦略は時間とともに見えてくる
現在でも見られるように、事業者は資産価値を最大化するため新しい入札手法を次々に生み出しています。ループ入札は1年かけて普及し、今や非常に一般的です。共最適化や分割がバッテリーで主流戦略となるかは今後の動向次第です。
新プラットフォームの複雑さから、事業者が最適な入札戦略に落ち着くまでには時間がかかるでしょう。現在はEFAブロックごとに最大6件、1日で36件の入札が可能ですが、EACでは1日最大525件(25バスケット×親注文1件+子注文最大10件+代替子注文最大10件)、3,000通り以上の組み合わせが可能です。
これにより入札の自動化がさらに重要となり、市場の動向分析もこれまで以上に難しくなるでしょう。




