バッテリーエネルギー貯蔵(BESS)は、オーストラリアのエネルギー転換の要となっていますが、大規模な投資を引き出すには、強固なマーチャント基盤だけでなく、実行可能なオフテイク契約(たとえばバーチャル・トール)が不可欠です。NEM(全国電力市場)では、これらの契約の構築や価格設定には独自の課題と機会があります。
本記事では、NEMにおけるバッテリー向け物理・バーチャル・トールのアプローチ方法や価格設定のベンチマーク、契約構造がリスクとリターンにどう影響するかを解説します。
BESSオフテイク契約を構築する際のポイント
トール契約の経済性や構造は、資産所有者とオフテイカー間でリスクとリターンをどう分担するかに左右されます。重要な要素は以下の通りです:
- 価格:保証収益を設定します。所有者は目標リターンや最低債務返済額を満たす価格を求め、オフテイカーは市場リターン低下時のリスクを抑えたいと考えます。
- 契約期間:多くの場合、債務期間と一致させる必要があります。短期契約は価値が高い一方、安定性は低くなります。
- 契約容量:金融デリバティブ型の新しいオフテイク契約により、バッテリーのどの割合を契約対象とするか柔軟に決められます。
- 保証サイクル制限:サイクル回数や劣化は、将来のオフテイカーが得られるバッテリー価値に影響します。
- ロケーションリスク:限界損失係数(MLF)や系統制約は、特にネットワークの弱い部分にある大規模プロジェクトで収益を減少させる要因となります。
これらの要素が、オフテイク契約のレベルやバンカビリティ(金融機関が融資可能と判断するか)に影響します。物理トールは運用リスクの大部分をオフテイカー側に移しますが、バーチャル・トールではリスクが所有者側に残ります。
本記事は、NEMにおけるトール契約に関する2部構成シリーズの第2回です。第1回はこちらで、オフテイク構造の解説や2025年時点でNEMで稼働中の契約概要を紹介しています。
ケーススタディ:ニューサウスウェールズ州の4時間・200MWプロジェクトにおけるオフテイク契約の価格設定と構築
トール契約は、投資家が不確実なマーチャント収益を予測可能な契約キャッシュフローへと交換できる仕組みです。基本的には、目標内部収益率(IRR)の達成を目指します。
BESSの収益を予測し、IRRハードルと比較することで、目標リターンを確保するオフテイク価格や構造を決定できます。ここでは、ニューサウスウェールズ州中部の4時間プロジェクトを例に説明します。
設備投資額が$1565/kW、年間運用費が$26.20/kW/年の場合、プロジェクトは税引前・無借入IRR10~12%を達成するために、1MWあたり年間$200,000~$225,000の平均収益が必要です。この金額が交渉の出発点となり、契約収益が資本コストをカバーし、リターン基準を満たすレベルです。
市場ベンチマークを活用したトール価格の設定
市場ベンチマークは、過去の市場実績に基づき実現可能なトール価格を示します。NEM各地域ごとに2つの手法で価格帯を定義します:




